下肢静脈瘤とは、足の血管(静脈)がコブのように浮き出たり、クモの巣のように細い血管が透けて見えたりする病気です。
本来、足は第二の心臓といわれるように、ふくらはぎの筋肉が伸縮することでポンプのような働きをし、血液を心臓に戻しています。その流れを補助するように、静脈内には弁という構造があり、血液の逆流を防ぎスムーズに血液を流す役割をしています。
足の静脈弁が立ち仕事や妊娠などの負荷により壊れて正常に機能しなくなると、血液の流れに逆流が起こり、逆流した血液により血管の圧力が高まります。その結果、徐々に瘤のように拡張され膨らんだ状態になり下肢静脈瘤が形成されます。
このような症状により日常生活に支障をきたす場合も多く、早期の治療が必要ですので早めにご相談ください。
当院では下肢静脈エコー検査によって診断、治療方針を決定しています。検査は、脚にゼリーを塗って、超音波プローブを当てるだけですので、痛みがなく簡便です。繰り返し検査を行うこともできます。下肢静脈エコー検査は、観察部位により寝ている状態で施行したり、立位で施行したりすることで、血栓の有無や静脈の逆流防止弁が壊れているかどうかを評価することが可能となります。
下肢静脈瘤には大きく分けて4つの種類があります。
下肢静脈瘤で一番多いタイプで、7~8割が伏在静脈瘤だと言われています。伏在静脈瘤は、伏在静脈の静脈弁が壊れて血液が逆流し、ふくらはぎのまわり、むこうずねのまわり、膝のまわり、太ももの内側などで血管が拡張して浮き上がり、0.5~3cm程度のコブ状になったものです。 伏在静脈は典型的な下肢静脈瘤のタイプで、ふくらはぎなどにコブができやすい大伏在静脈瘤と、ふくらはぎ周辺や膝の裏側に瘤ができやすい小伏在静脈瘤があります。
大伏在静脈は足の内側を通っているもっとも太い静脈で、くるぶしから始まって脚の付け根で大腿静脈と合流しています。この合流部に負荷がかかって逆流防止弁が壊れ、病変が進行すると下腿部に広がっていきます。
大伏在静脈瘤の治療は、血管内レーザー焼却術やレーザー焼却術と硬化療法を組み合わせた治療やストリッピング手術などが一般的です。血管内レーザー焼却術は、手術跡がほとんど残らず、保険適用になっていることなどから最も推奨できる治療です。
小伏在静脈は、足の裏側を通っている太い静脈で、深部静脈と膝の裏で合流します。静脈瘤は膝の合流部以下の逆流防止弁が壊れて逆流が起きます。静脈瘤ができる範囲は比較的狭く、自覚症状も乏しいことが多いです。症状としては腓腹(ふくらはぎ)が膨らんだり、鈍痛が生じたり、けいれんが出るなどを訴える方がいます。
治療は小伏在静脈と膝窩の接合部を結紮し切離したり、小伏在静脈に対して血管内レーザー焼却を施行しますが、神経が近くに走っているため注意が必要です。近年保険適応になった、接着剤(グルー)による血管内塞栓療法はこの部位の血管内治療には非常に有効と考えます。小伏在静脈瘤の原因や症例にはいろいろなバリエーションがあるため、症例にあった治療方法を選んでいくことが大切です。
伏在静脈の枝部分の静脈弁が壊れたために血液が逆流し、その血管の圧力が高くなりできた静脈瘤で、伏在静脈から枝分かれした部分に発生します。膝から下の部分に出来ることが多いとされます。伏在静脈瘤が表在静脈で最も太い血管であるのに対し、側枝静脈はその次に太い静脈です。静脈瘤の症例としては伏在静脈瘤が多いものの、伏在静脈瘤と合わせて側枝静脈瘤を併発しているケースもあります。
伏在静脈瘤と併発することがあるため、特に丁寧にみていく必要があります。静脈瘤ができる範囲が狭く、血液のたまる量も少ないため一部が膨れて浮き出てくる程度であることが多くなっています。そのため進行するまで気付かないケースがよくあります。大伏在静脈の分枝部分の弁不全や静脈の機能不全による逆流などが原因とされており、まれに骨盤内の静脈の逆流が原因となっている場合もあります。
無症状であれば経過を見てもよいし、弾性ストッキング着用で悪化を防止してもよいでしょう。ただし、皮膚の炎症や色素沈着などがある場合には、潰瘍に進展することもあり手術治療が望ましいと思います。
基本的に網目状静脈瘤自体は手術の必要はなく、硬化療法や弾性ストッキングのみでの治療で済む、比較的軽症の静脈瘤です。外観が気になる方には、まず血管内に血管を固める薬を注入し血管を目立たなくさせる、下肢静脈瘤硬化療法をお勧めします。
網目状静脈瘤より浅い部分にある真皮内静脈の拡張によって起こります。直径が1mm以下と細いことも特徴で、皮膚の上から放射状に広がるためクモの巣のように透けて見えます。瘤というよりは、細い薄紅色の血管が皮膚から見えるのが特徴です。
網目状静脈瘤と同様に血管の隆起はありません。大腿部、下腿部、膝裏などに起こりやすいとされています。比較的軽症の部類に分類されるクモの巣状静脈瘤。基本的には手術治療の必要はありません。弾性ストッキングや硬化療法などでの治療となります。
ただし、慢性静脈不全症と言って下肢のだるさやむくみ、湿疹などが生じるようなケースではきちんと治療を行わないと悪化する恐れもあるので速やかに病院を受診しましょう。
下肢静脈瘤や深部静脈血栓症など、足の静脈の血流が悪くなる病気(慢性静脈不全)の人は、老廃物を多く含む汚れた血液が足に方に溜まってしまいます。これを静脈うっ滞といいます。
静脈うっ滞を長年にわたって放置してしまうと、足の皮膚は血液循環が悪くなります。皮膚の角化細胞がダメージを受け、皮膚がカサカサになり、身を守るための皮膚のバリアー機能が壊されるので、外からの刺激に対して湿疹・かゆみを生じやすくなります。足のむくみ、湿疹・かゆみ、色素沈着など皮膚症状を生じ、進行すると皮膚が硬くなり、最終的には皮膚が潰瘍になることがあります。
静脈うっ滞に伴うこれらの皮膚症状を総称して「うっ滞性皮膚炎」といいます。進行すると潰瘍の悪化から骨髄炎をきたし、足の慢性炎症から敗血症をきたすこともあるため、早めに適切な治療をすることが大事です。
原因にもよりますが、まず基本となるのは圧迫療法です。弾性ストッキングまたは弾性包帯により足を圧迫します。これだけでもむくみ、湿疹・かゆみ、皮膚潰瘍などは良くなります。
深部静脈血栓症により深部静脈の弁が逆流するようになってしまった方は、圧迫療法以外に効果的な治療方法がないため、長期間にわたって弾性ストッキングを着用する必要があります。
下肢静脈瘤で表在静脈の逆流が見られる方は、レーザーまたは高周波カテーテルによる血管内焼灼術や、従来の手術方法であるストリッピング手術(静脈抜去術)が適応となります。手術により静脈の逆流を止めることができれば、湿疹・かゆみ、皮膚潰瘍などは改善していきます。残念ながら皮膚の色素沈着は一度生じてしまうと改善するのは難しく、できるだけそのような症状が出始めた段階で治療を開始することが望まれます。
軟膏を塗っても治りにくい皮膚炎はうっ滞性皮膚炎を疑い、超音波検査を受け、適切な診断と治療することが重要です。治療は長期間に及ぶこともありますので、途中で中断せずに持続的に根気よく続けることが肝要です。
下肢静脈瘤の治療法には、
・弾性ストッキングを使う圧迫療法
・注射で静脈を固める硬化療法
・手術療法
以上の3つの方法があります。
手術療法には血管内治療(レーザー治療)、接着剤治療(グルー治療)、ストリッピング手術と高位結紮術とがあります。
当院では日帰りでの血管内治療(レーザー治療)または接着剤治療(グルー治療)を主に行なっております。
特に伏在型静脈瘤(大きな静脈瘤)に対しては、現在は血管内レーザー・高周波治療・グルー治療が標準治療になっています。
静脈の中に細い管(カテーテル)を通します。そのカテーテルによりレーザー光線を発することで血管の内側に熱を加え、静脈を縮ませて血液が流れないようにします。体に影響の少ない"低侵襲治療"と呼ばれる治療方法になります。
従来施行されていたストリッピング手術は、全身麻酔や腰椎麻酔などによる麻酔下に、足の付け根と膝の2箇所を切開し、拡張した原因静脈を引き抜くことで治療する方法ですが、レーザー治療では膝の内側に細い針を刺すだけで治療することができます。
当院ではLeonardo 1470とELVeS Radial 2Ring Slim fiberを導入し、従来の機器による治療よりさらに痛みと内出血を軽減させております。長年血管内治療に携わり、下肢静脈瘤のレーザー治療経験豊富な院長自らが担当いたします。すべて健康保険の適応となります。
2019年12月から血管内塞栓療法(グルー治療)が保険適用となりました。当院では、従来行ってきた血管内焼灼術(レーザー治療)に加え、2021年5月よりグルーによる血管内塞栓治療を始めました。
グルー治療とは、医療用の”瞬間接接着剤を用いて病的な血管を処理する治療のことです。針を刺して静脈内にカテーテルを入れ、瞬間接着剤(グルー)を注入して血管の中を固めて逆流を止める治療です。傷跡はほとんど残らず、麻酔を行う部分はカテーテル挿入部分だけです。血管内焼却術のように治療する血管全長にわたり、麻酔薬を注入することは不要です。血管1本の塞栓には約20分ほどで治療ができ、治療効果は、欧米の成績では血管内焼灼術や抜去術と変わらないと言われております。
これまで行われてきたレーザー治療やラジオ波による血管内焼灼術では、少数ですが神経障害や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)などの合併症がおこることがありました。接着剤によるグルー治療では血管を焼灼させることはないのでこれらの合併症がほとんどありません。また、この治療で使用するシアノアクリレート系の瞬間接着剤は、これまでも医療用として血管内治療や皮膚接着などに広く使われており、安全性には問題ないとされています。
体に負担が少ない(熱で焼かないため神経損傷が起こりにくい)治療法で、特に高齢者の方や、小伏在静脈領域の静脈瘤に向いている治療です。皮下出血も少ないです。治療後の弾性ストッキングは、原則不要もしくは短期間で良く、運動や生活の制限がありません。
ただし手術は比較的簡単で済みますが、接着剤によるアレルギーの方や膠原病、高度のアレルギー体質の方には適しませんので、よく相談しながら術式を決定することが重要です。
レーザー治療やグルー治療の際に静脈瘤切除を追加することがあります。この治療方法は血管内レーザー治療やストリッピング術を行うことで、一般的に静脈瘤や圧力が減るため目立たなくなることが多いのですが、すでに大きく拡張した静脈の退縮は遅いため、目立つ静脈瘤は3mmぐらいの皮膚切開を行い、細いフックを使用して切除する治療のことです。通常は1~6カ所ぐらいの追加切除を行い目立つ静脈瘤を除去します。
従来型の手術になります。現在当院では試行しておりません。一般的に伏在静脈抜去術と言われ、全身麻酔・腰椎麻酔もしくは局所麻酔にて手術を行います。
足の付けと膝付近に約1cmの切開を2か所行い、その間を走行する拡張した静脈の中に細いストリッパーと呼ばれる管を通して、静脈を抜去(切除)する手術です。大腿部の静脈を約30~40cmぐらい抜去します。血管内レーザー治療ができない方や蛇行の強い方、静脈の口径が大きく拡張した方に特に有効な治療です。
細い針で目立つ静脈に血管を固める硬化剤を泡状にして注射し、血管内腔を潰して静脈瘤を治療する方法です。施術時間が15~30分ほどです。適応となるのは細い静脈瘤や手術後の残存した静脈瘤に施行します。治療後には、色素沈着したり、しこりが残ることがありますが、時間の経過とともに消失することが大半です。
医療用ストッキングで足を圧迫します。足全体をやや強めの圧力で外方から圧迫し、静脈瘤の進行を防ぐのが圧迫療法です。静脈内に貯留している血液が減り、深部静脈への流れが促進され、下肢全体の血液循環が改善されます。ただ症状の進行を抑えたり、再発防止はできますが、静脈瘤を治す事はできません。当院では、医療用ストッキングを取り扱っております。詳しくはお問い合わせください。
特に伏在型静脈瘤(大きな静脈瘤)に対しては、現在は血管内レーザー・高周波治療が標準治療になっており、当院では、日帰り手術が可能なレーザー装置、麻酔装置を設備しております。
当院では十分な経験を積んだ院長により、患者さまお一人おひとりに応じて適切な治療を提案させていただきます。
まずはお気軽にご相談いただければと思います。
当院は下肢静脈瘤血管内焼却術実施施設であり、手術症例は2021年3月1日より外科手術・治療情報データベース事業(NCD)に参加し、症例登録を行っております。ご理解をよろしくお願いいたします。